新釋 yUraru 語文法
■歷史
ユーラル語は、西方の古言語を祖語とし、北方民族の白色語 (sifarU yUsin) 等、周邊諸語の影響の下に、中央諸島の住民の言語として、帝國曆紀元前第一千年紀に成立した。其の後、帝國曆一世紀から二世紀頃(基督教徒曆紀元前 2000 年前後)に、帝都ユーラトの學者達に依つて體系化され、以降、東方兩大陸世界の外交・學術言語として、數千年に亙つて使用され續けた。中世の一時期、言語話者の著しい減少を見たが、此に因り、反つて文章語としての形式の固定化が進み、近現代に到る迄、文法の變化を殆ど生じなかつた。 ■音韻と字母
ユーラル語には、5 種の母音と 2 種の半母音と 17 種の子音が存在し、それゞゝにひとつの字母が對應してゐる。
5 種の母音は、音素のラテン字表記では/a/、/o/、/e/、/i/、/u/と表はされる。
/a/、/e/、/i/の發音は、それゞゝ[a]、[e]、[i]であるが、/o/と/u/の圓唇性は、殆ど失はれてをり、ほゞ[ɤ]、[ɯ]に成つて了つてゐる。但し、綴りが wo (wo)、wu (wu) と成る場合には、母音に[o][u]が現れる事がある。
2 種の半母音は、音素のラテン字表記では/y/、/w/と表はされる。
重母音を認めるとすると、/ya, yo, ye, yu, wa, wo, we, wi, wu/の 9 種の上昇二重母音が認められる。(yi は[iː]と發音される。)
y は、母音の口蓋化を表はす場合もある。
w は、後續音の圓唇化を表はす場合もある。
17 種の子音は、音素のラテン字表記では
/f/, /p/, /b/, /m/, /s/, /z/, /q/, /t/, /d/, /r/, /n/, /c/, /x/, /j/, /h/, /k/, /g/と表はされる。
發音はそれゞゝ
[ɸ],[p],[b」,[m],[s],[z],[ts],[t],[d],[ɾ],[n],[tɕ],[ɕ],[ʑ],[x, h, ç],[k],[ɡ]である。
但し、h は、後續音に依つて發音が變化する。
table:發音
字母 ラテン 發音
f f ɸ
p p p
b b b
m m m
s s s
z z z
q q ts
t t t
d d d
r r ɾ
n n n
c c tɕ
x x ɕ
j j ʑ
h h x, h, ç
k k k
g g g
y y j
w w w
a a a
o o ɤ
e e e
i i i
u u ɯ
この表に揭載したユーラル語獨自の文字は、可成り後の時代に成つてから制定された、左橫書きの爲の文字である。其以前は、左縱書きする爲の別の文字を使用してゐた。此の縱書き文字は、橫書き文字制定後も倂用されてゐる。卽ち、ユーラル語は縱書きと橫書きで異なる文字を使用する稀有な言語である。
■基本文法
ユーラル語は、基本的に膠着語に屬する。名詞は、後置詞に依つて格變化を起こす。
基本的な語順は、SOV である。重要なのは、動詞がほゞ文末に來ると云ふ事である。
形容は前から後ろへと行はれる。卽ち「海 - 蒼い」ではなく「蒼い - 海」と云ふ語順を取る。
また、ユーラル語に於いては、主語や目的語と云つた槪念よりは、題目と術部とから形成される題術構造の方が重要である。
ユーラル語の品詞として、名詞(代名詞を含む)、動詞(形容動詞を含む)、後置詞、感動詞、接續詞、副詞が立てられる。
■名詞と後置詞、格と題に就いて
ユーラル語の名詞は、後置詞を伴ふ事で、9 つの格を取る。以下に示す。
主格 後置詞 sa(sa)、動作の主體を示す。題後置詞 ra(ra)の前では省略される。 屬格 後置詞 ru(ru)、所有や、意味上の主語目的語、全體の内の部分たる事を示す。 與格 後置詞 yu(yu)、動作の閒接目的語を示す。 向格 後置詞 nyu(nyu)、動作の作用する方向を示す。 奪格 後置詞 fiyu(fiyu)、動作の起點、分離等を示す。 引用格 後置詞 de(de)、~として、等の意味を表す。發言の引用にも用ゐる。 無格 後置詞無し、コピュラ動詞 se(se)を用ゐる時に現れる。 【例 01】iri sa rube. 星が輝く。
Iri sa rubE.
【例 02】a ru teru sa yurato fiyu taku nyu gaume. 私の父が帝都から此處に來る。
A ru tEru sa yUrato fiyu tAku nyu gaumE.
【例 03】swo ro gade. 戸を叩く。
swo ro gade.
swo(swo):戸(名詞)、gade(gade):叩く(動詞)
【例 04】ren yu rikode. あなたに命ずる。
ren yu rikode.
ren(ren):二人稱代名詞、rikode(rikode):命令する(動詞)
格とは異なる槪念として「題目」と「焦點」と云ふ槪念が存在する。
題目とは、話題の中心となる既知の物であり、焦點とは、話題の中心となる聽き手にとつて未知の物である。題目を持たない文も存在するが、焦點は、あらゆる文に必ず存在する。
題目は、後置詞 ra(ra)で示される。焦點は、後置詞 qi(qi)で示される事もあるが、省略され、文脈から焦點を判斷する事もある。尚、ra(ra)と qi(qi)は、格後置詞の後に續けられる。但し、格後置詞 sa(sa)と倂用される時は、ra, qi が優先され、sa(sa)を省略する。qi(qi)は、他の後置詞と違ひ、強く長く發音される。
【例 05】a ra iria se. 私はイリアである。
a ra iria se.
iria(iria): イーリア(人名、無格)、se(se):コピュラ動詞 此の場合、「私」と云ふ存在が既知であり、自動的に、殘りの要素たる「イリア」が未知、卽ち焦點となる。【例 05】に於いて、a(a)を未知とし、iria(iria)を既知とする時は、單純に iria ra a se. (イリアは私である iria ra a se. )とする事も出來るが、a qi iria se. (私こそがイリアである。 a qi iria se.)とする事が多い。ra(ra)と qi(qi)を用ゐる位置を變へる事で、何を強調するかを變へる事が出來る。ra(ra)があり qi(qi)の無い文に於いては、焦點は ra(ra)の直後に置かれる事が多いが、口語であれば、其の限りではないなど、例外も多い。(強く高めの音で發音する事で、其處を焦點とする事を示す事も出來る。)
ra(ra)に依つて示される内容が、話者と聽き手の雙方に取つて全く自明である樣な際には、此の内容を省略する事が出來る。
【例 02】を參考に此の變化に就いて見ると、以下の樣に成る。
【例 02-a】a ru teru ra yurato fiyu taku nyu gaume.
a ru teru ra yurato fiyu taku nyu gaume.
私の父は帝都から此處に來る。(「此處に」若しくは「來る」の場合もある。)
【例 02-b】a ru qi teru sa yurato fiyu taku nyu gaume.
a ru qi teru sa yurato fiyu taku nyu gaume.
私の父が帝都から此處に來る。(帝都から此處に來るのは誰の父か? との問ひに對して。)
【例 02-c】a ru teru qi yurato fiyu taku nyu gaume.
a ru teru qi yurato fiyu taku nyu gaume.
私の父が帝都から此處に來る。(帝都から此處に來るのは誰か? との問ひに對して。)
【例 02-d】a ru teru ra yurato fiyu taku nyu qi gaume.
a ru teru ra yurato fiyu taku nyu qi gaume.
私の父は帝都から此處に來る。(君の父は帝都から何處に來るのか? との問ひに對して。)
■動詞と、動詞の接中辭と接尾辭に就いて
ユーラル語の動詞の特徴として、多くの形容動詞が含まれる事が擧げられる。此等の形容動詞は、通常の動詞とほゞ同樣に用ゐられる。
文の主要な動詞は、文末に置かれる事が多い。
副詞による修飾を受ける時は、副詞は基本的に動詞の直前に置かれる。
ユーラル語の動詞は、接中辭と接尾辭の形を變化させる事に依つて、法、態、時制等が變化する。基本となる形は、語幹+接中辭∅+接尾辭-e である。例へば、動詞 madore(食べる madorE)は、語幹 mador+接中辭∅+接尾辭-e から成り立つ。 接尾辭は、多數あるが、主要な物を以下に擧げる。
-e(e) 原形。
【例 06】a ra reka ro madore. (私は其を食べる。)
a ra reka ro madorE.
-a(a) 命令法を示す。
【例 07】ren ra reka ro madora. (君は其を食べろ。)
ren ra reka ro madora.
-u(u) 名詞を修飾する。
【例 08】aimaru iri sa rube.(赤い星が輝く。)
aimaru iri sa rube.
-i(i) 副詞的用法、動詞の竝列、動詞の名詞化の際に用ゐる。
【例 09】iri sa aimari rube. (星が赤く輝く。)
iri sa aimari rube.
-ofiyu(ofiyu) 確定順接條件法。其が爲される故に、後續する事象が生起する事。
【例 10】reka ro madorotofiyu, reka ra jeno ginare. (其を食べたので、其は今無い。)
reka ro ra madorotofiyu, jeno ginare.
jeno(jeno):今(副詞)、ginare(ginare):無い(形容動詞)
-oku(oku) 假定順接條件法。假定が現實なら、後續する事象が生起する事。
【例 11】reka ro madorotoku, reka ra jeno ginare. (其を食べたなら、其は今無い。)
reka ro ra madorotoku, jeno ginare.
-oruyu(oruyu) 確定逆接條件法。其を爲すにも拘らず、後續する事象が生起する事。
【例 12】a ra tonaroruyu, tonirine. (私は眠いのに眠れない。)
a ra tonaroruyu, tonirine.
tonare(tonare):眠い(形容動詞)、tone(tone):眠る(動詞)
-odinu(odinu) 假定逆接條件法。假定が現實でも、後續する事象が生起する事。
【例 13】a ra tonarodinu, tonirine. (私は眠くても眠れない。)
a ra tonarodinu, tonirine.
-onei(onei) 單純接續法。單に動詞を繫ぐ。
【例 14】a ra reka ro madoronei, tone. (私は其を食べて眠つた。)
a ra reka ro madoronei, tone.
已に登場した物が幾つかあるが、動詞接中辭は以下の 5 つである。動詞接中辭に依つて、態、極性、時制が變化する。動詞接中辭は、動詞語幹と動詞接尾辭の閒に挾む形で用ゐる。動詞接中辭は、同時に複數を用ゐる事が可能だが、其の際は、以下の順序を守らねばならない。
1:-ix-(ix) 使役態。
【例 15】madorixe(食べさせる madorixe)
2:-osof-(osof) 受動態。
【例 16】madorosofe(食べられる madorosofe)
3:-ir-(ir) 可能動詞化。
【例 17】madorire(食べ得る madorire)
4:-in-(in) 否定極性。
【例 18】madorine(食べない madorine)
5:-ot-(ot) 過去時制。
【例 19】madorote(食べた madorOte)
(接中辭を全て用ゐた場合)
【例 20】madorixosofirinote(食べさせられ得なかつた madorIxosofirinote)
■疑問文の作り方に就いて
疑問文には、rae(rae)と zain(zain)で應へさせる諾否疑問文、文の一部に疑問詞を置いて、其處に對する答を求める疑問詞疑問文、選擇肢を示してどちらかを選ばせる選擇疑問文の、3 種類が存在してゐる。
諾否疑問文を作るには、元の文の文末の動詞の動詞接尾辭を-u(u)形にし、後置詞nya(nya)を文末に置く。
【例 21】taka ro ra madoriru nya. (此は食べられますか。)
taka ro ra madoriru nya.
《註》此の文の「此」は、「食べ得る」と云ふ動詞に就いては客體なので(因みに主體は文中に無い。)、對格を取らねば퍒らない。多くの日本語話者は、ユーラル語の日本語との類似性から、taka ra madoriru nya. (文意を強調して意譯するなら「此は食べると云ふ動作を行ひ得ますか。」)と問うて了ふ。例へば調理されたエードゥを前にして其の樣に言へば、「其はもう死んでゐますよ。」等と云つた答が返つて來る事だらう。
【例 22】ren ra iria su nya. (君はイリアですか。)
ren ra iria su nya.
焦點を、確認したい事項に置く事で、其を確認したいと云ふ事を強調する事が出來る。(【例 02-a, b, c, d】を諾否疑問文にすると下線部を確認する意と成る。)
諾否疑問文に應へるには、其の諾否疑問文の元と成つた文の内容が眞であればrae.(rae.)、僞であれば zain.(zain.)と應へる。正確を期す爲に、文を後續させる事もある。
【例 21-a】rae. taka ro ra madorire. (はい。食べられます。)
rae. taka ro ra madorire.
【例 21-b】zain. taka ro ra madoririne. (いえ。食べられません。)
zain. taka ro ra madoririne.
【例 22-a】rae. a ra iria se. (はい。私はイリアです。)
rae. a ra iria se.
【例 22-b】zain. a ra iria sine. (いえ。私はイリアでないです。)
zain. a ra iria sine.
諾否疑問文には、動詞が否定形に成つてゐる場合もある。所謂、否定疑問文であるが、疑問文の元と成つた文の内容が眞であれば rae.(rae.)、僞であれば zain.(zain.)と應へると云ふ原則は守られる。
【例 23】ren ra taka ro madorinotu nya. (君は此を食べませんでしたか。)
ren ra taka ro madorinotu nya.
【例 23-a】rae. a ra taka ro madorinote. (はい。食べませんでした。)
rae. a ra taka ro madorinote.
【例 23-b】zain. a ra taka ro madorote. (いえ。食べました。)
zain. a ra taka ro madorote.
疑問詞疑問文を作る時に注意すべき事は、疑問詞を必ず焦點にし、決して題目にしない事である。疑問詞は、元々焦點に퍒る性質を持つてゐるので、誤つて疑問詞の後に ra(ra)を付ける樣な暴擧に出なければ其で良い。そして、文末の動詞の動詞接尾辭を-u(u)形にし、後置詞 nya(nya)を文末に置く。
【例 24】ren ra wifu ro madorotu nya. (君は何を食べましたか。)
ren ra wifu ro madorotu nya.
【例 24-a】a ra taka ro madorote. (私は此を食べました。)
a ra taka ro madorote.
選択疑問文を作る時は、第一の選擇肢を取る文を元に諾否疑問文を作り、其の後にコンマを置いてから、第二の選擇肢を取る文を元に、元の文の題目を省略して、諾否疑問文を作る。文が長い時等に、兩選擇肢の閒に接續詞 rekanya(rekanya)を置く事もある。
【例 25】ren ra taka ro madorotu nya, rekanya, reka ro madorotu nya. (君は此を食べましたか、それとも、其を食べましたか。)
ren ra taka ro madorotu nya, rekanya, reka ro madorotu nya.
■終りに
今回は、文法の根幹のみに絞つて解説したので、日常生活に於いて使用される各種定型句や、法や法性の細かい部分に就いては、記述してゐません。ですが、此處迄の内容を讀んで戴ければ、ユーラル語の基本的なഞ章は、大方理解出來るのではないかと思ひます。
此を讀んだ皆樣が、言語に僅か乍ら興味を持つて下されば、私の目論見は成就したと謂へませう。